こんにちは、コラゾンデザインの林です。
旅先で少し気になった事をお知らせします。
予約の段階で特に気にするほどではないけれど、
実際にお部屋に入ったときにあるとうれしい、そんな“窓際の謎スペース”。
その名は「広縁(ひろえん)」といいます。
「広縁」とは、部屋の端から窓までの奥行きがおよそ90〜120cm以上ある空間のこと。
旅先でこの広縁があると、とても便利です。
座って景色を眺めたり、和室で座り疲れたときに椅子を置いてくつろいだり。
同行者がいるときは、少し一人になりたいときの自分スペースにもなります。
相手が先に眠ってしまった夜、静かに外の風景を眺めるのにもぴったり。
実にさまざまな使い方ができる、心地よい場所なのです。
この便利な「広縁」、実はもともと“廊下”だったとされています。
かつての旅館では、廊下が建物をぐるりと囲むように配され、
お客さまは庭と部屋の間にある廊下を通ってお部屋へ案内されました。
部屋の中は広い大部屋で、ふすまで仕切って小部屋をつくるという構造。
江戸時代の旅館ではこの形式が一般的で、当時の日本家屋の造りをそのまま取り入れていたのです。
宴会のときにはふすまを開けて大広間に、夜には男女別の小部屋に仕切ることもできる——
旅館としては非常に効率的な仕組みでした。
時代が進み、明治期の開国を迎えると、外国人観光客が増えていきます。
しかしこの日本的な旅館の構造は、海外の人々にとって少し不思議なものでした。
施錠できるドアがなく、プライバシーが保てない。
そして、ソファのように腰掛ける家具もない——。
そんな背景から、建物の外周を囲っていた廊下が部屋ごとに仕切られ、
ふすまは壁に置き換えられ、内側から施錠できる出入口が設けられました。
こうして誕生したのが、現在の「広縁」です。
その後に建てられた旅館でも、この新しい形式が多く採用されていきました。
今では“ちょっとうれしい窓際スペース”として親しまれている広縁。
けれどその背景には、江戸時代の日本家屋の設計思想や、明治時代の開国による文化の変化といった歴史の痕跡が息づいています。